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第27章 真相 / 第181話
奴は何をしてくるだろう。いつでも魔法を放てるように、ミユから身体を離して臨戦態勢を取る。
ところが、奴から殺気が消えた。
「と言いたいところだが、君たちに見せたいものがある。私は悪趣味じゃないのでね」
前に出した手で指を鳴らすと、俺たちの足元にまたしても魔方陣が広がった。これは見たことがない陣だ。どこへ連れて行こうというのだろう。混乱している間に視界は暗転する。
気を失ったのではない。辺りが真っ暗なのだ。涼しく、湿った空気に、風が流れ込む。
「オマエら、いるか!?」
近くでアレクの声が聞こえる。
「いるよ!」
「あたしも!」
「私もいる!」
声から察するに、四人ともさほど離れてはいないようだ。
誰かと合流出来ないだろうか。辺りを手探りしていると、ざらりとした触感のものに触れた。これは――木の幹だ。
目も段々と慣れていき、周囲の状況を確認できるようにもなる。ここは森の中だ。では、奴はどこに行った。
睨みを利かせ、周囲をなめ回すように見渡す。
そこへ、足を引き摺るような、違和感のある小さな足音が聞こえてきたのだ。俺たちと奴以外に誰かいる。警戒を怠らずに視線を移すと、木の幹の間からランタンの明かりが漏れている。そして、段々と近付いてきている。
腰まで揺蕩う長い焦茶の髪に、ひざ丈のスカート、真っ白の衣服――俺が見間違える筈がない。彼女はカノンだ。
どこへ向かっているのだろう。疑問に思うと同時に、ミユが叫んだのだ。
「カノン! 来ちゃ駄目!」
「ミユ?」
「お願いだから、テントに戻ってぇ!」
森の中、闇夜、ミユの悲痛な叫び――それらを統合すると、一つのものが浮かび上がる。呪いだ。
カノンが今、まさに呪いをかけられようとしている。過去を変えるチャンスかもしれない。苦しみぬいた過去が昇華されるかもしれない。そう思うと、カノンを止めずにはいられなかった。
カノンの前に飛び出すと、アレクも別の方向からカノンに向かって飛び出してきた。
「カノン、止まれぇ!」
「頼むから、戻って!」
叫んでも、ランタンに照らされたカノンの虚ろな表情は変わらない。彼女はどうしてしまったのだろう。
叫んでも駄目なら、体当たりするしかない。アレクも同じ結論に達したのだろう。
「カノン! 聞こえねえのか!?」
俺の前に出て、カノンに向かって突進を始めた。しかし、何が起きたのかカノンはアレクをいとも容易く躱し、尚もこちらに歩みを進める。
「オレの身体が……透けた!?」
「えっ!?」
身体が透けるなんて、そんなことが起こり得るのだろうか。半信半疑になりながら、俺もカノンの元を目指す。
「カノン! 止まるんだ! 頼むから!」
彼女の行く先で、両手を広げて阻止を試みる。カノンは俺を見ることすらせずに、体当たりをする。その瞬間、俺の身体が透けたのだ。カノンは俺の身体を突き破る。
アレクの言った通りの事が起きてしまった。己の身体が透けるなんて。混乱している間にも、カノンの背中と揺れる髪は夜の闇に吸い込まれていく。
「カノン……!」
また俺は何も出来ないのだろうか。見ているしか無いのだろうか。何故、こんなにも俺は――。
足は身体を支える機能を失ってしまった。膝を打っても痛みも感じない。
「うわあぁーっ!」
心は悲鳴を上げている。胸はきつく締め付けられ、地に突いた手の甲には涙が落ちて水玉模様を描いていく。
叫んでも、嘆いてもカノンには届かないのだろう。風に流され、見えない空に消え行くのみ。
俺たちの願いも虚しく、その時はやってきてしまった。
「えっ? 私、なんでここに?」
カノンは辺りをきょろきょろと見回す。まるで影に操られていたかのようだ。
それも束の間、彼女の顔は恐怖に竦み上がる。
「影!? 何で!? こんなの卑怯だよ~!」
こんな重大な異変が起きているとは気づかずに、過去の俺は暢気に小屋で眠っていたのだ。
「オマエはワタシが連れてきた。呪いをかけるためにな」
「呪い……!? 何の!?」
「『死』の呪いだ」
今だってそうだ。声だけではなく、手を伸ばしてもカノンに届きはしない。
「止めろ……」
こんなにも近くにいるのに。止められる筈なのに。
「痛っ……」
「カノン! これで終わりだ!」
これ以上、彼女を苦しめるな。未来を奪うな。そんなことをする権利がお前のどこにある。思いを濡れる瞳に託し、影がいるであろう場所を睨み付けた。
しかし、思いだけで過去が変わる筈も無く――。
ランタンも放り投げて逃げ惑った末に、カノンはついに追い詰められてしまった。影はカノンの胸に右手を翳す。紫の靄が影の手から放たれ、カノンに当たり、爆発する。その衝撃で、カノンは後方の木の幹に身体を打ちつけた。ずるずると崩れ落ちると、カノンは動かなくなってしまった。
駄目だった、また繰り返してしまった。俺はあまりにも無力だ。
真っ先に現場へ現れたのはアリアだ。アリアはカノンの身体を抱き、名を呼びながら身体を揺らす。
そこへアイリスとサラも加わり、必死にカノンを目覚めさせようと試みているようだ。
リエルたちもようやく到着し、横たわるカノンに血相を変える。そして影と対峙した。
「影……!」
カイルが驚愕の声を上げる。
「お前、カノンに何をした!? どうしてここに!?」
「その問いに答える義理は無いな」
「答えろ!」
この先はもう知っている。無様な俺を見せつけないでくれ。
「影……!」
手を伸ばしたところで、影に届きはしない。全員が大地に倒れた所で、視界がぐにゃりと歪んだ。渦巻く視界には、白と青の割合いが増えていく。
瞬きをすると、あのベルフラワーが咲く花畑に倒れていた。ミユに謝らなくては。カノンを止められなかったばかりに、未だに彼女を苦しめている。
数歩離れたところでミユはしゃがみ込んでいた。彼女目掛けて、潤む瞳も気にせずに抱きついた。
「ごめん、カノンを止められなかった……!」
あんなに守ると約束したのに。謝っても、謝っても謝り足りない。
締め上げているのではないかと言う程にミユをきつく抱き、己の不甲斐なさを呪う。
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