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第2章 トライドール / 第335話
まさか、都合よくそんなことが起きるはずがない。頭では否定してしまうのに、心はトファーのことを『仲間』だと叫んでいる。
ゆっくりと首を横に振る私に、トファーは苦笑いをした。
「おい、失礼なヤツだな。トライドールがトライドールを見てする反応か?」
「だって……。まさか、本当に逢えるなんて思ってなかったから……」
「オレにか?」
トファーに、と言うよりもトライドールに、と言った方が正しいだろう。小さく頷いてみせると、トファーはまた大きく笑う。
「嬉しいことを言うじゃねぇか。でもよー、さらに嬉しいことがある、って言ったらどーする?」
トファーの黄色とブルーグレーのオッドアイがぐっと近づく。
「他にも……トライドールがいるの?」
「オーリ、ガルニアを呼んできてくれ」
「はーい」
オーリはトファーに間延びする返事を残し、部屋から去っていった。
どうしよう。ミユの手紙が現実になろうとしている。速すぎる鼓動は収まってくれそうにない。
心臓の音、トファーが水を飲む音、フクロウの鳴き声、そして、誰かが近付いてくる足音――全てを敏感に感じ取ってしまう。
「ねえ、地のトライドールってどんな子?」
「見てみれば分かるって」
女性とオーリの話し声まで聞こえてくる。
静かにドアが開けられると、そこには赤と金のオッドアイを持つ女性の顔があった。長く揺蕩う黒髪は絹のような柔らかさを感じさせる。
信じられない。この場にトライドールが三人も揃っているなんて。
エメラルド城へ連行される時の私は、絶望しか待っていないと思っていた。たった一人で誰にも知られずに果てると思っていた。それなのに。
今の私の未来は、少しだけ太陽に照らされているように思えるのだ。
女性はちょこんと首を傾げた後、にこっと微笑む。
「はじめまして。あたしはガルニア。貴女は?」
「エルヴァです」
「そう。よろしくね」
女性――ガルニアは胸の開いたワンピースを着こなし、優雅にトファーの隣へと腰を下ろす。オーリはこちらに歩み寄り、私の隣に座った。
トファーはガルニアに微笑み、すっと息を吸い込む。
「さーて、あとは水のヤツだけだな! んで、どーにか戦争を食い止めねぇと」
「その『水のヤツ』が大変なんでしょ? どうやってこっち側に引き入れるの?」
「やっぱり、おれかトファーさんが行くしかないよ」
『水のヤツ』つまり、もう一人のトライドールということだろうか。しかも、この世界で戦争が起きるなんて話は聞いたことがない。話についていけず、小さく唸り声を上げてしまった。
それでも会話は進んでいく。
「ま、条件はエルヴァと同じようなもんだからな……。オーリ、行くか?」
「うーん、おれはトファーさんがいいと思う。相手は男だから、エルヴァさんみたいに強引に連れてくるなんてことができるわけじゃないし」
「あの……!」
言葉を遮り、堪らす声を上げてしまった。
「水のトライドールって誰? それに、戦争って何?」
私が聞くと、三人は目を丸くする。
「おいおい、有名な話だぞ……? 知らねぇって、とんだ箱入り娘だな」
「そんなことを言われても……」
私の場合、箱入り娘という表現では片付けられないと思うのだ。
ちょっとだけ頬を膨らませてみると、ガルニアに笑われてしまった。
「エルヴァにも事情があるんでしょ? ちゃんと教えてあげようよ」
「仕方ねぇなぁ……」
トファーは頭を掻き、口を曲げる。
「いいか、簡単に言うぞ? 水のトライドールはサファイアの王子だ」
「王子様……!?」
思わず両手を口に当ててしまった。サファイアはエメラルドよりも北にある雪国だ。私でもそれくらいは知っている。トファーは大きく頷き、続ける。
「戦争はサファイアとエメラルドが起こそうとしてる……いや、正しくは『サファイアが』だな」
エメラルドに戦争が起きようとしているだなんて。自分の無知を思い知らされると同時に、本当のことなのだろうかと懐疑心が生まれる。
私が眉間にしわを寄せると、オーリは小さく咳払いをした。
「エルヴァさん、疑ってるよね」
「……うん」
「ちょっと考えてみて欲しい。おれたちがエルヴァさんに嘘を吐くメリットは? トファーさんとガルニアさんは同じトライドールだよ?」
そう言われると、黙るしかなくなってしまう。
トファーたちにメリットなんて何もないだろう。嘘を吹き込む理由もないだろう。
信じるしか――ないのだろうか。
「ちょっと……考えさせて」
口を結び、拳を握る。
「今日はこの辺にしない? エルヴァだって疲れてるだろうし」
「あぁ、そーだな。ガルニア、エルヴァを部屋まで連れていってやってくれ」
「分かった。エルヴァ、行こう?」
「う、うん……」
まとまらない頭を引き連れて、どうにか腰を上げる。
トファーはハッとしたようにオーリを見た。
「オマエ、エスペランサ号はどーした?」
「あっ、忘れてた!」
「早く格納しろ!」
オーリは慌てた様子で、私よりも早く部屋を出ていく。私が目を丸くしていると、トファーは口角を上げた。
「そーいや、オマエをちゃんと歓迎してなかったな。ダイヤモンド・ブスカール号にようこそ!」
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