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第7章 陰謀 / 第297話
朝食後、間を置かずにレオニスは別邸へとやってきた。私の顔を見ると、真っ先に抱き締める。その身体は僅かに震えていた。
「ミエラ、済まないことをした。痛かっただろう」
「あ、あの……?」
私はまだレオニスに認めてもらえていないのに。返す言葉が見つからず、身体を離したレオニスを見上げる。その銀の瞳もまた小さく揺れていた。
「この事件は私たちの判断ミスが招いたと認めよう。私の娘になるかもしれない令嬢を、よくも……」
レオニスの表情が苦渋に満ちていく。
その光景を一歩引いたところで見ていたクラウは、レオニスの隣へと歩み寄った。
「父さん、犯人は口を割った?」
「いや、自白は愚か、一言も声を発さないらしい」
クラウは視線を落とし、僅かに唸る。
「ちょっと考えてたんだけどさ」
「何だ?」
「もう、でっち上げでもいいんだ。主犯候補のうち一人の名前を犯人の前で話題に出す」
レオニスはピクリと眉尻を上げた。
「それで?」
「反応を見る。それしかないと思うんだ」
じっと見詰めるクラウに、レオニスは慎重な姿勢を崩さない。
「最初からそんな賭けには出られないな。拷問をしてでも吐かせた方が確実じゃないか?」
「拷問で吐くような性格じゃないと思うよ。ああいう奴は死んでも吐かない」
クラウの発言に、昨夜の挑発的なジャックの瞳を思い出す。拷問して吐くくらいなら、昨夜、クラウに殴られた時点で吐いていると思う。
レオニスは唸り声を上げながら、何やら考え始めた。どうやらクラウの案は合意しがたいらしく、首を横に振る。
「やはり駄目だ。最初からそんな無謀な策は。どうにか自白させる」
「父さん……!」
必死に訴えるクラウに向かって首を振ると、レオニスは視線を私にぶつけてきた。
「ミエラ、尋問に同席するかどうかだが」
「私も行きます」
レオニスが意見を言う前に、私から遮っていた。クラウに任せてしまっては、いつ無茶をするか分からない。それに、ジャックが暴言を吐いたとしたら、その悪意をクラウが一身に受けるのだろう。そんなのには耐えられない。
決意を込めてレオニスを見詰めると、彼の瞳が微かに細められた。
「どんなことを言われても耐えられるか?」
「はい。クローディオも一緒ですから」
「そうか」
レオニスは私の、そしてクラウの顔を見ると、口を固く引き締めた。
「行くぞ」
事件が解決する保証はない。もしかすると、今夜もまた眠れぬ夜に苦しむのかもしれない。それでも、私にできることがあるなら力の限りを尽くしたい。クラウと顔を見合わせ、大きく頷いた。
馬車はひた走り、サファイア城の門をくぐる。ちらつく雪と重なって、城はより神秘的に目に映る。
「牢屋って、城の中にあるの?」
「うん。急ごしらえだから、部屋に監禁してる、の方が近いんだけどね」
そうか、この世界には事件が存在しなかったから、牢屋もなかったのだ。胸が鈍く傷む。
「……この世界も変わったな」
呟かれたクラウの言葉がいつまでも耳に残った。
城に入ると三人揃って無言で歩く。天井高くにぶら下がるシャンデリアには目もくれない。私は城の構造を知らないので、クラウに手を引かれながらレオニスの後に続いた。地下へと降りても、廊下の明るさは変わらない。
もうそろそろ牢屋につくだろうか。手が汗ばみ始めた頃、レオニスが足を止めた。他の部屋と変わらない、金の装飾が付いた白いドアだ。
「いいか?」
レオニスが振り返って囁くので、私とクラウも小さく頷いてみせる。
レオニスは勢いをつけてノブを回した。部屋は鉄の柵で二等分に仕切られていて、柵の奥に薄ら笑いを浮かべたジャックが凭れていた。無言で目を細め、口角を上げる。
レオニスは臆することなく前へと進み、ジャックを氷のように冷めた瞳で見下ろした。
「いい加減、疲れただろう。少しは楽になったらどうだ?」
ジャックは返事すらせず、目を横に流す。
「いつまでそうしている気だ?」
レオニスがいくら凄んでも、ジャックは口を開かない。私が話を聞くなら、今だ。
「あの、公爵」
「どうした?」
「私に一つだけ質問をさせてください」
緊張しないわけがない。怖くないわけもない。生唾を呑み込み、拳を握る。右腕に鋭い痛みが走ったけれど、ここで負けたりはしない。
目に力を込めて、ジャックを見る。
「貴方は、どうして私を……?」
「俺が知ったことじゃない」
舌打ち混じりに、ジャックは小声を漏らす。
「怒っているのは貴様じゃない! 私たちだ!」
遂にレオニスは声を荒らげた。泣いたら心が折れてしまいそうだ。唇を噛み、瞼を瞑る。その時、クラウが動く気配を感じた。
「じゃあ、誰が知ってる? 主がいるのか?」
普段よりも低いクラウの声が部屋を振動させる。
「言うわけないだろ」
「いるんだな」
ジャックの返事の仕方で答えを導き出したのだろう。クラウは確信めいた一言を放つ。
ジャックが少しだけ、たじろいだ気がした。
「こんなにあっさり捕まる奴を公爵家に送り込むなんて、身の程が知れてるな」
「主を悪く言うな!」
初めてジャックが感情を露わにした。もしかすると、クラウはジャックから何かを聞き出せるかもしれない。少しの希望が顔を覗かせる。
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