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第15章 挑戦状 / 第324話
「嘘~……」
クラウだけではなく、私も肩を落としてしまう。
「ミエラ様の声援があっても駄目かぁ」
「所詮はミエラ様もそこまでってことでしょ?」
聞き覚えのある声に、顔をしかめる。振り返らなくても分かる。メイベルとルイーザだ。
気にしては駄目だ。クラウの試合に集中しなければ。
今度こそ勝って、とクラウを見詰める。二人は息を整えた後、再びスタート位置についた。
「位置について……よーい」
ライアンが空砲を鳴らす。同時にクラウとスチュアートが氷を蹴る。軽快な音を響かせながら、二人はリンクを駆け抜ける。半周来たところでも、力に差は感じられなかった。あと四分の一で勝負が決まる。そこまで来て、スチュアートが一歩前に出た。
負け越すなんて嫌だ。せっかく、私のために準備をしてくれたのに。悔しくて、思わず立ち上がっていた。
「クローディオ、行け~っ!」
手をメガホンにし、思い切り声を張り上げる。リリーも立ち上がりその様子を見守る。
一度は離れた差が縮まり、クラウにも勝機が訪れるかのように見えた。しかし、これも勝負だ。スチュアートが簡単に負けてくれるわけにもいかず、意地を見せる。ゴール寸前で二人は並んだ。勝敗は、私の肉眼では分からなかった。
審議はライアンに託されたらしい。滑り終えた二人も、ライアンの方へと向かう。
「ねえ、今のどうなったの?」
「もう一試合見たいから、クローディオ様が勝っていて欲しいけど……」
令嬢たちの声で集中が削がれてしまう。
「リリー……」
堪らず声を出してしまった。
「どっちが勝っても、二人の関係は変わらないから大丈夫~」
リンクを見詰めながらも、リリーはのんびりと返事をしてくれる。そういう意味でリリーを呼んだのではない。心臓が高鳴りすぎて、助けを求めたのだ。胸を押さえ付けても治まってくれそうにない。
お願いだから、クラウが勝っていて。祈りながらライアンを見詰める。
そして、ライアンは口を開いた。
「スチュアート様の勝ちです」
「えっ!?」
思わず両手で口を覆う。命を懸けた戦いを繰り広げたわけではない。ただ、勝負ごとに負けただけだ。それなのに、この絶望感は何なのだろう。
思わず観客席を飛び出していた。
「ミエラ~!」
リリーの声も聞こえるけれど、振り切った。令嬢や令息の前を駆け抜け、スケート靴を履く。そのままリンクへと降り立つ。この時は、不思議と転倒することへの恐怖なんて一ミリも感じなかった。
スチュアートとライアンを無視し、クラウの身体へと飛び付く。そして、二人で氷に激突してしまった。
「み、ミエラ!?」
「頑張った! 頑張ったよぉ……!」
人目なんてどうでもいい。私はただ、クラウを慰めてあげたいのだ。手を伸ばしてようやく届いたクラウの金の髪を撫でてみる。
泣きそうな勢いの私に、スチュアートとライアンが小さく笑っているのが聞こえた。クラウも「あはは」と笑う。
「そんなに真剣に見ててくれたなら、企画した甲斐があったよ」
「違うもん! 企画じゃなくて、真面目な勝負だもん」
二人とも、一切、気を抜いたりしなかった。勝ち負けに関わらず、賞賛に値すると思うのだ。
二人で立ち上がりながら、観客席に目を遣ってみる。拍手や口笛が鳴りやまず、誰かを非難したりする声はない。
「スチュアート様、おめでとうございます!」
「クローディオ様、格好よかったです!」
令嬢たちが歓声を上げるので、スチュアートは両手を振って感謝を口にする。
「ありがとう」
きっと、観客席には届いていない。それでも、するのとしないのとでは全く印象が変わるものだ。
今回も、きっとクラウは澄まして無視を決め込むのだろう。そう思っていた。しかし、クラウの口も小さく動いたのだ。
「みんな、ありがとう」
私の耳にだけ届くような、小さな声だった。その顔には私に見せるような笑みがある。
クラウの中で、何かが変わった。そう思わせるには十分だった。
* * *
これで終わると思っていた私が甘かった。スチュアートとライアンに礼祖言い終わると、クラウは私の肩を軽く叩く。
「さ、練習を再開しよっか」
「えっ!? 終わりじゃないの!?」
「企画は休憩って言ったじゃん?」
そんなことは聞いていない。というか、企画そのものを知らなかった。首を横に振ると、クラウは首を傾げる。
「ま、いいか。やるものはやるよ」
「そんなぁ……!」
今日はもう十分練習したと思うのだ。拳を握って反抗しても、クラウの意思は変わらない。
「スケートリンクを貸し切ったのに?」
そう言われると、言葉を飲み込むしかなくなってしまう。口を尖らせて俯いていると、クラウはさっさと前方へと滑っていく。
「ここまで来ないと帰らないよ」
「む~っ!」
また鬼ごっこの再開、というわけらしい。仕方なく、氷を蹴ってクラウの元へと向かう。その途中で、観客席から声が聞こえた。
「ミエラ様、やっぱり可愛いな」
「クローディオ様が羨ましいよな」
振り返ってみると、観客席には数人の令息たちが残っているようだ。私を見て何やら話している。
「ミエラ、こっちに集中!」
クラウの方からも声が聞こえ、はっと我に返った。
令息たちの声を気にしていては、これから先が思いやられる。理解はできるのに、頬は高熱を発するのだった。
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