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第15章 抵抗 / 第142話
* * *
ミユの体力面を考え、魔法の特訓は二日後から行われることとなった。加えて、重要なことがもう一つある。使い魔たちがダイヤにやってきたのだ。影の襲撃を受け、世界の監視よりも俺たちの護衛に力を入れたい、とのことだった。
食事の準備は全て使い魔たちが整えてくれた。部屋の時計の針を見てみれば、時刻は五時半――こんな時だ、既に三人は会議室にいるのだろう。もしかすると、特訓の作戦でも立てているかもしれない。
そろそろ俺も会議室に向かおうか。カップに残っていたレモンティーを口に含み、茶葉の風味を楽しんだ所で喉へ流し込んだ。
そう言えば、ミユとフレアはどうやって和解したのだろう。時間の許す事があるのなら、聞いてみても良いだろう。
考えことをしながら廊下を進む。会議室の扉を開ける前に、何やら中から話し声が聞こえてきた。
「あんまりからかわないであげて。ミユは必死だよ?」
ミユがからかわれていると確かに聞こえてきた。それなら助太刀に入らねば。そう思ったのだが、扉を開けると何やら様子が違う。
困惑するアレクの胸板をミユが拳で叩く。それをフレアが傍から苦笑しながら見ていた。
「今の八つ当たりじゃねーか?」
「違うもん」
「三人で何してるの?」
聞くと、ミユははっと振り返る。
一方で、アレクは俺を見て冷笑した。
「コイツがな、オレの事を馬鹿にしてただけだ」
「なんだ、もっと言ってやっても良いよ」
「クラウも煽らないの」
フレアは言い切り、目を吊り上げる。
どうせ、俺を殴ったことについて話をしていたのだろう。理由はどうあれ、殴ったことには変わりない。思わず肩を竦めた。
「でも、俺を殴ったのは事実だし」
「オレの暴力は正当だろ? 文句があるとは言わせねぇ」
俺も正当だとは思うが、文句がない訳ではない。
むっとしてアレクを睨みつけると、ミユが俺とアレクの間に割って入ったのだ。こちらに背を向け、アレクに首を振る。
「ミユに感謝するんだな」
アレクは深い溜め息を吐くと、長い前髪を掻き上げた。
「全員集まったんだ。これからどーするか話そーぜ」
目を細めてテーブルを見据える。颯爽と指定席に向かうと、彼はどかりと腰を下ろす。
俺も素直にアレクの後に続いた。四人全員が腰を落ち着けたのを確認し、彼は口を開く。
「オレ、考えてみたんだけどよー」
アレクはすっとフレアの瞳を見詰めると、ミユ、俺へと視線を移動させる。
「例えば、だからな。もし、光の矢が駄目になっちまって、魔法で戦わなくちゃならなくなったら、だ。二手に分かれた方が、魔法の相性良くねぇか?」
「誰と誰?」
「オレとフレア、クラウとミユだ。オレらは風で炎の勢いを強められるし、オマエらは水と岩が混ざって威力が増す」
「その手があるね……」
フレアが呟くので、一緒に頷いてみせる。
ミユは小首を傾げた。
「威力が増す?」
「うん。自然現象に例えてみれば良いよ。俺たちの魔法が土石流で、アレクたちは火災旋風」
俺も実際に見たことはないし、魔法で実践したこともない。小説で読んだのみだが、威力は単独の魔法と比べると何倍もあるだろう。
納得したように、アレクは口角を上げる。
「成功するかは分からねぇ。でも、やってみる価値はあるだろ?」
「うん」
「んで、オレとミユ、クラウとフレアはなるべく離れた方が良い。互いの魔法を打ち消し合うからな」
それは考えずとも分かる。水と火は互いを消し合うし、風と地も互いを遮ってしまう。
作戦が崩れる事は――あるだろうか。
数秒、間が空く。
「オマエらからは何もねぇのか?」
「全部アレクに言われた」
「おい……」
憶測でこれ以上は何も言うことはない。
アレクは肩を落とし、大袈裟に溜め息を吐いた。その後、咳払いをし、場を取り繕う。
「とりあえず、明日から分かれて特訓な。他に何かあるか?」
「ない」
ミユは魔法にまだ馴染めていないだろう。最初に魔法のコントロールの仕方を教えるのが優先だ。そして、徐々に魔力を強化して――。
「ミユ、大丈夫か?」
「へっ? あっ……うん」
俺が特訓の内容を詰めている間に、ミユは別のことを考えていたらしい。俯くその頬は紅に染まっている。
特訓で二人きりになることに恥じらいを覚えたのだろうか。可愛らしい仕草に、思わず笑いが漏れる。
すると、微かに蝶番が軋む音が聞こえてきた。
「皆様、お食事が出来ましたよ」
「今日はカレーにしてみました」
この声はカイルとアリアだ。
カレーなんていつ振りだろう。サファイアにそんな料理はないから、サラに調理を担当してもらうしかないのだ。
切り分けられたバケットとカレールーが運ばれてくる。エスニックな味わいを想像し、自然と口の中に涎が溜まっていく。
「冷める前に食べよーぜ」
「いただきます」
手を合わせるや否や、ミユはバケットにカレーを付け、ぱくりと頬張った。みるみるうちに顔が綻んでいく。
「美味し〜」
「ミユの顔を見てると、作り甲斐があるよな」
「そうなんです。いつも喜んで下さるので、運ぶ私も嬉しくなります」
料理を用意する者としては、やはり喜んでもらえるのが一番なのだろう。アレクとアリアの感想にも納得だ。
「今日はサラが料理長ですよ」
「カレーだもんな」
視線を浴びたサラは気まずそうにそっと俯き、フレアに小瓶を渡した。
「これ、唐辛子?」
フレアの問いに、サラはこくりと頷く。フレアはサラに微笑みかけ、小瓶の中身をカレーへと注いだ。辛過ぎるだろうと思いながらも、いつもの光景だ。驚くこともせずに眺めていた。
俺もコク深いカレーに舌鼓を打ち、久し振りに食事を楽しむ事が出来た。
先に満腹感を味わった俺は、ミユが食べ終わるのを待っていた。彼女は皿が空になると、ナプキンで口の周りを丁寧に拭う。
「これからも、こんな日が続けば良いな」
ぽつりとミユが呟いた。
「ずっと続かせてみせよう?」
「うん……」
未来を勝ち取って、四人で笑い合うのだ。
ミユはこちらを見ることはなく、頬に睫毛の長い影を落とす。
「俺たちなら大丈夫だよ」
堪らずに、ミユの頭にそっと触れる。
「大丈夫」
必ずミユは守ってみせる。
その言葉を受け入れてくれたのか、ミユの瞼は閉じていった。
傍らでは使い魔たちが食事の後片付けをしてくれている。
「もーそろそろオレらは部屋に戻るけど、オマエらはどーすんだ?」
「明日もあるしね。早めに戻るよ」
「そーだな」
これから過酷な特訓が待っているのだ。無理はさせられない。なにも、今日が終わったら、全てが終わってしまう訳ではないのだから。
「また明日も、明後日も、その先だってあるからさ」
「私がいるのをお忘れですか?」
声のした方を振り向いてみると、アリアが円らな瞳でこちらを見ていた。隣ではカイルも不服そうに佇んでいる。
「アリアもいるなら大丈夫そう」
俺たち四人の笑い声が会議室に響く。和やかな空気はしばらくお預けだ。
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