読み込み中...
読み込み中...
第13章 代償 / 第136話
これから起こることを予感しているのだろうか。空は雲に覆われ、雪が弾のように身体に打ちつけ、凍えるような寒さに襲われる。水の塔の間近にワープしたから良かったものの、少しでも離れていれば雪に視界が遮られ、遭難していただろう。
こんな景色は今まで見たことがない。
雪国育ちの俺でも、この薄着で氷点下の世界に耐えられる筈もない。咄嗟に大地を蹴っていた。
入口を潜るなり、魔法陣の中心を目指す。
モザイク模様の魔法陣は、既に青の淡い光を放っていた。その縁を踏むと、一瞬にして浮遊感に包まれる。眩しくて瞼を開けていられない。
そうして到着したのは、ネモフィラの絨毯が敷き詰められた、真っ青な花畑だった。外とは違い、空も雲がなく澄み渡っている。
景色とは真逆に、俺の心は澱んでいた。
「駄目だ、緊張する……」
これからミユの命運が決まるのだと思うと、全身が震えてしまう。緊張を何とかしようと、握る拳に力が入る。
“緊張するなって言う方が無理だよ。せめて、前を向いて”
リエルに言われて初めて、俯いていることに気がついた。すっと前を向き、生唾を飲み込む。
と、周囲に一つの影が落ちたのだ。それは円形で、段々と大きくなってくる。
上を見上げてみれば、あれは――鳥、だろうか。翼もあるし、間違いはない。しかし、大きさが尋常ではないのだ。
何メートルあるのだろう。踏まれればひとたまりもない。
“クラウ、逃げなきゃ!”
「分かってる!」
もつれる足で、何とか鳥との距離を取る。花が散ってしまうのを気にしている余裕はない。強い追い風が吹き付ける。
そして、重たい音が鳴り響くと同時に、地面が小さく揺れた。激しい風も吹き荒ぶ。どうやら難を逃れたらしい。
振り返ってみると、そこには巨大な黄色の三本の脚、青のふっくらとした身体、折り畳まれた翼、青のつぶらな瞳に、黄色のくちばし――余りの迫力に、思わず吐息が漏れた。
“鳥っ!?”
その姿は正に鳥そのものだ。
こんなにも非現実的なことが起こるなんて。頭がついていかない。
「来たな」
呆気に取られ、目を見開いたままで口を中途半端に開けていると、頭上から声を浴びせられた。
「外は寒かっただろう。他の者を徹底的に排除するために、天候を悪化させたからな」
天候を操ることが出来るとは、まさか――。
「貴方が……神様?」
「如何にも」
鳥――いや、神は迷う様子も見せず、頷いてみせた。声は紛うことなき水の神、その人の物だ。
「悠長に話している場合でもない。手短に話そう」
“それより、謝るのが先じゃない?”
「何の話だ」
“地の子にしたこと”
もっともな言い分なのに、神はくちばしを僅かに開けて溜め息を吐く。
「あれは我がしたのではない。地の神がしたことだ」
“だからってさ!”
リエルと共に、瞳に思いを託して神を見詰めた。
神はまだ認める気がないのか、目を閉じてゆっくりと首を振る。
「地の魔導師には聞かせられぬ話だと言っただろう。我が地の神の立場だったとしても、同じことをしていた筈だ」
謝る気配も見せずに淡々と話す神に、段々と腹が立ってきた。
別に、詫びの一言くらい入れたって良いではないか。もし聞かせられない内容だとしても、あの時にミユを傷つけずに済んだ方法だってあった筈だ。
ミユの涙を見た者なら、そんなことは言えない。
拳を握って神を睨みつけてみる。その一方で、神の目つきも鋭くなる。
「良いか? これから話すことは、我らがようやく探し出したものだ。だが、実行するもしないもお前の自由」
神はそこで一度言葉を区切り、「ふぅ……」と息を吐く。
「心して聞きなさい」
胸がざわめき、一気に緊張感が高まる。
その言葉は唐突に発せられた。
「地の魔導師の呪いは解けぬ訳ではないのだ」
呪いが解けるかもしれない。希望が灯ると同時に、何故、ミユには聞かせられなかったのか疑問が残る。
呪いは解けないなどと突き放した理由がある筈だ。
「どうしたら呪いは解けるの?」
期待を押し殺し、神の瞳を見詰める。
「これを受け取りなさい」
神は翼をしきりに動かし、懐から何かを取り出しているようだ。翼の先が鋭く光ったかと思うと、それをくちばしで摘み上げる。くちばしが開くと、銀の物体がゆっくりと落ちてくる。針のように細長い形状、十字に結えられた鍔――それは切っ先を地面に向けた状態で、俺の前で静止した。
曇りや錆などは一切ない。透き通る程に磨き上げられたロングソードだった。
訝りながらも柄を両手で持ってみると、剣は羽根のように軽かった。
「それは『解呪の剣』という」
「解呪の剣?」
「そうだ。願えば軽くもなるし、重くもなる。その剣を使えば、地の魔導師の呪いを解くことも出来るだろう」
この剣に、そんな力が。
しげしげと眺めてみると、鍔には唐草模様が施されている。十字の中心には何かを嵌め込めそうな窪みも見て取れた。
「この穴は?」
「地の魔導師に玉を渡してある。それを埋め込みなさい」
何故、直接俺ではなく、ミユに渡したのだろう。首を傾げてみせると、神は目を細めた。
「お前なら、自ずと答えに辿り着くだろう」
そうなのだろうか。分からず、またしても剣を眺めてみる。
この話はいかがでしたか?
この作品を評価する