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第8章 リインカーネーション / 第352話
その日はいつまで経っても眠れなかった。明るいミユの日記と、悲哀に満ちたクローディオの日記を思い出してしまうのだ。私は、この人たちのことは知らない。でも、その一端に触れてしまった。悲しいなんて一言では済まされない。心に重たい重りがのしかかっているようだ。
いつの間にか朝はやって来て、朝日が私のベッドを照らす。この船はどこへ向かっているのだろう。目を擦り、着替えて早々、会議室を目指した。
「あっ、エルヴァさん。おはよう」
振り返ってみると、晴れ晴れとした表情のオーリがいた。
「おはよう……」
欠伸をしつつ、返事をする。
「エルヴァさん、眠れなかったの?」
「うん。考えごとをしてたから」
そして、大きな欠伸をもう一つする。
「体力削ってるんだから、ちゃんと眠らなくちゃ駄目だよ?」
「うん……」
そうだ、オーリはあの日記の存在を知らない。だから、こんなにも呑気でいられるのだ。
オーリに話したら、どんな反応をするのだろう。口にはしないけれど、少しだけ興味が湧いてしまった。
「お腹空いたぁ……」
「トーストあるから。行こう」
「うん」
オーリに追い抜かれ、その背中を見ながら会議室へと入る。そこにはもう他の五人が円卓に勢ぞろいしていた。サフィールとトファー、ガルニアはやはり寝不足らしい。目の下にクマを作っている。
「おや、エルヴァもですか」
眠気を堪えながら瞬きをする私の顔を、ラジエルは覗き込む。
「これを見たら、ラジエルもそんなことを言っていられなくなるよ」
サフィールはおもむろに腰のポケットに手を突っ込んだ。そして、あの日記をそっとテーブルに置いた。
ラジエルは首を傾げて日記を見たものの、すぐに何か分かったらしい。一気に血の気が引いていった。
「サフィール、それは……!」
「うん。持ってきちゃった」
オーリもいつも私が座っているテーブルにトーストを置くと、日記を見て目を丸くする。
サフィールとラジエルの間に腰掛け、私もぼんやりとそれを眺める。
「返してきましょうよ……!」
「どうやって?」
「それは……」
サフィールの問いに、ラジエルは押し黙った。
オーリもトファーの隣に座ったところで、サフィルは凛と声を張る。
「結論から先に言う。たぶん、俺とエルヴァは……」
サフィールは私に視線を移し、口を引き結ぶ。
「クローディオとミエラの生まれ変わりだ」
言い切ると、静かに日記に視線を落とす。
私も妙だとは思っていたのだ。ミユから偶発的にも『私の生まれ変わりである、数十年後の貴女へ』という手紙も受け取っている。顔だって偶然にしては似過ぎている。
そして、エメラルド城で見たあの肖像画の部屋を思い出した。私と同じ顔の肖像画が所狭しと並んでいたのだ。もし、ミユが私の前世だとしたら、あの肖像画の人物は――想像するだけで鳥肌が立つ。
「そんなことってあるの?」
訝しげにガルニアが呟いた。
「トライドールがトライドールに転生なんて、何パーセントの確率? 確かに顔は似てたけど、それはトライドールだっただけで……生まれ変わりなんて言い切れないんじゃない?」
「この記録を見て欲しい」
サフィールはテーブルに置いていた日記に手を伸ばす。文字が書かれているページを捲り、白紙のページも次々に捲る。そうして出てきたのは、とある警告文だった。
* * *
俺の生まれ変わりが読んでるかもしれないから、ここに残しておく。君の左目が青くてオッドアイなら、君は俺の生まれ変わりだ。何も覚えてないかもしれないけど、それが真実だ。
一言、忠告をしておく。神には近づくな。いいことなんて何一つない。何も知らないままでいてくれ。
それと、戦争が起こりそうなら、すぐに止めるんだ。権力がなくても、魔法がなくても。意地でも止めて。
* * *
「これ以上、疑う余地がどこにある?」
トファーとガルニアは何も答えられないようだ。トファーは頭を抱え、ガルニアは唇を噛む。
「……私も、他に見たものがあるの」
言うなら今しかない。あの不気味な部屋の存在を、みんなにも知ってもらうべきだ。
「私、エメラルド城にいたでしょ? そこで見たの。私と同じ顔の肖像画がたくさん並んでる部屋……。全員、魔導師で、別々の名前だった」
ぞわりと寒気がして、腕を抱える。
「……魔導師だっていう根拠は何だ?」
「おでこについてる、緑で雫型の石」
私が瞳に力を込めると、トファーは眉間にしわを寄せた。ガルニアは震える声を絞り出す。
「じゃあ、魔導師全員が、エルヴァの前世……?」
「そうなのかも……しれない」
そう考えることで、繋がる部分があるのだ。クローディオの日記で、六百年前の魔導師――カノンとリエルの名前が出てきた理由――もし、クローディオが自分の前世を知っていたなら、書き残すのかもしれない。
「……いや、考え過ぎだろ。まだ理由が足りねぇ」
「そう……だよね」
トファーは空笑いをし、ガルニアは瞳を揺らす。一方で、サフィールだけはその結論にどこか納得していないようだった。
「話を持ち越したいんなら、そうしたらいい。次はトパーズのブラストン伯爵家に行くんだよね?」
「うん、そうだよ」
サフィールの質問に、オーリが短く返した。
サフィールは鋭い目でトファーとガルニアを見遣る。
「そこで二人も分かるよ」
トパーズのブラストン伯爵家――私には分からない単語がまた増えてしまった。首を傾げてみても、誰も答えてはくれない。
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