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第16章 親告 / 第148話
途端にアレクの眉間にしわが寄った。
「オマエ、あの話すんのか?」
「……うん、そのつもり」
一瞬、躊躇ってしまった。この機会を逃せば、フレアに話せなくなるかもしれないのに。もっと強くあれ、俺、と自分を叱咤する。
口を開こうとするも、アレクに先を越されてしまった。
「使い魔たちは先に帰ってくれ」
「えっ? ですが……」
「俺からも頼む。ちゃんと事情はあとで話すから」
言い切ると、口を固く閉じる。頭も下げたくなったが、重大な何かを隠していると思われかねない。今でも十分怪しまれているが、これ以上に嘘は重ねたくなかった。
ことの異常性を悟ったのか、フレアは小さく息を呑んだ。
訝しがる表情をしたロイが何かを言いかける。それをカイルが片手を広げて制した。
「今は皆さんに従おう」
「でも」
「『今は』だよ」
カイルは笑顔も見せずにロイとサラに目配せをする。その気迫に臆したのか、二人は悔しそうに視線を落としてしまった。
「私は『いつか』そのお話を聞かせていただけると思っています。ですよね、クラウ様」
その青い瞳が何もかも見透かしているようで、若干の恐怖感を抱いてしまった。慌てて小さく頷いてみせる。
「では、私はサファイアでお待ちしております。お戻りになったら、温かい紅茶でも入れますね」
「うん、ありがとう」
俺が礼を言うと、カイルはそっと微笑んだ。そのままワープを放つ。光に包まれた瞬間、大きく頷いたように見えた。
取り残されたロイとサラは気まずそうにこちらをちらりと見る。
「私も、トパーズで待ってます。絶対に、何があったか聞き出しますからね」
「あぁ、分かってる」
「それでは」
ロイとサラは頷き合うと、揃ってワープを果たした。これでこの場にいるのは俺とアレク、フレアの三人だ。
「とりあえず、座ろうよ」
「あ、あぁ」
俺が促すと、誰からともなくいつもの席へと向かう。その間も揺れるフレアの瞳は、俺とアレクの様子を窺っているようでもあった。
椅子に座るか座らないかというところで、フレアは声を張る。
「良くないことでしょ? ねぇ」
先を急かすかのように捲し立てられた。アレクと顔を見合わせ、唸る。
「良くないことと、良いことが両方ある。どっちから聞きたい?」
問うと、フレアは俺の顔をじっと見て眉を吊り上げた。
「良いこと」
「ミユの呪いは解ける」
「えっ……?」
その赤の瞳に希望の灯が点ったように見えた。ぱちくりと瞼を瞬かせる。
「じゃあ、呪いを解く方法なんて探さなくても良いよね? どうして?」
その純粋な瞳に胸が痛くなる。俺はフレアまでをも一度絶望に突き落とそうとしている。分かっているが、隠したままではいられない。悲しみをぐっと堪え、フレアを見詰め返した。
「その方法を使うなら、誰かが身を捧げる必要がある。俺が適任って言われた。他の手段なんてないらしい」
フレアの目つきが怒りのものへと変わったように見える。
「……えっ? 誰に、そんなこと」
「神様だよ。塔に居る、あの声だけ聞こえた人。あれが神様だって名乗ったんだ」
フレアの瞳が徐々に潤んでいく。瞬きをすると、すうっと涙が零れ落ちた。それを綺麗だと思って見ていられる俺は、突きつけられた現実を受け入れ切れていないのだろう。
「死ねなんて言う神様がどこにいるの? そんなの、悪魔が言う台詞でしょ? あたしは信じない。絶対、信じないんだから」
「これを見ても、そんなことが言える?」
無感情のまま、懐に手を伸ばす。ハンカチを広げると、剣の形をしたそれは、はらりと現れた。
「これ、解呪の剣って言うんだってさ。かすりさえすれば、影を倒せるし、呪いも解けるらしい」
フレアは剣を見ようという意思を持ち合わせていないようだった。視線を落とし、ぎゅっと瞼を瞑る。
「……嫌! そんなもの、見たくない!」
言いながら、フレアは何度も首を横に振った。このまま解呪の剣を晒しておくのも忍びなく、包み直して懐へと戻す。
「二週間前、アレクに殴られたのは……これのせいだよ」
「えっ?」
「俺がこの方法に賭けようとして、心にもないこと言って、アレクを傷付けたから」
「オマエ……」
アレクの瞳まで潤んで見えたのは、多分気のせいだろう。アレクはこんなことで泣くような人物ではない。
「あの時は、ホントに悪かった。ごめん」
頭を下げて、気がついた。泣いていたのは俺だ。拳に雫が零れ落ち、冷たい感触が広がる。それが自分の涙だと気付くのに時間はかからなかった。
二人の前で声を上げて泣いたのは、これが初めてかもしれない。
自分の声の奥で、甲高いヒールの音が響く。俺のすぐ側で気配が止まると、柔らかな何かが背中を撫で始めた。
「クラウ、ホントに他に方法がないか聞いた?」
あの時は、そんな心の余裕なんてなかった。力なく首を横に振る。
「だったら、あたしだって足掻いてみせるんだから。そんな方法、なかったことにしてみせる」
言っている間も、俺を撫でる手を休めたりはしない。
「安心して? あたしたちだって、力になれるところを見せつけてやるんだから。ね、アレク」
「あぁ、当たり前だ」
心のどこかで、解呪の剣を使おうとする俺を二人に止めて欲しかったのかもしれない。それが叶った今、これ以上に心強い仲間はいないだろう。
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