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第9章 過去 / 第356話
ローストポークを口に入れながら、サフィールとラジエルの顔を見比べてみる。
「どうかした?」
「……ううん、なんでもない」
疑問を口にしたところで、喧嘩の火種になるとしか思えない。私に視線を向けるサフィールとラジエルに、首を振ってみせた。
「ガルニアは?」
「あたし? そうだなぁ。正直に言うと、屋敷にいた頃の記憶ってほとんどないの。それだけ、いい加減に扱われてたんだと思う」
ガルニアは悲しむふうでもなく、淡々と言って退ける。
「あたしは舞台の上に立ってる時が一番楽しかったから。不平不満は出てこなかったよ。一人だけ友達もいたし」
「どんな子?」
私には友達がいないから、純粋にそういう存在が気になってしまったのだ。一緒に遊んだり、出かけたりするものなのだろうか。
「ルベアっていう子なんだけどね? あたしが話しかけないと喋らないし、感情表現が苦手だし。でも、ちゃんと自分の意見は持ってる子だった」
ガルニアは小さく笑い、僅かに視線を落とす。
「遊んだりした?」
「……エルヴァ、さっきから質問のしすぎだぞ?」
トファーが苦笑いをしてから、しまったと気づいた。ガルニアは気にする雰囲気もなく、首を横に振る。
「話を続けるよ? 外で遊んだりはしなかったなぁ。やっぱりオッドアイがあるから、気楽には外に出られないから。その代わり、カードゲームとかボードゲームはしたよ」
カードゲームやボードゲーム――私には親しみのないものだ。機会があれば、みんなとやってみたいな、などと希望を胸に宿す。
「でも、一回だけルベアに言われたことがあるの。『ガルニアが踊れるのに、どうして私にはできないの? ガルニアよりもずっとたくさん練習してるのに』って」
ガルニアの口元は笑っているのに、目元は下がってしまった。
「あたしも一生懸命、練習してたつもりだったんだけど、ルベアにとっては『たったそれだけ』だったんだよね。ちょっとショックだった」
ガルニアは小さく笑い、肩を落とす。
「才能……だよね」
ここでオーリが小さく口を開いた。
「才能がない人は、努力でカバーするしかない。酷だけどね」
「逆に言うと、ガルニアにはダンスの才能があった。それだけで十分だと、僕は思いますけどね」
ラジエルのフォローもガルニアには通じなかったようだ。
「友達を傷つけるような才能なんかいらない」
ガルニアはそっと零し、口を結んだ。
「友達、か」
サフィールはそっと呟く。
「俺には友達なんていないから、ガルニアの気持ちは分からない。でも、いい加減に扱われてたのは俺も同じかな」
友達がいない。そんなところまで私はサフィールと似ている。胸が高鳴ると同時に、いい加減に扱われていたという言葉に胸が痛くなる。
「八歳になるまで、俺が幽閉されてたことは知ってるよね? 幽閉から解かれた後、初めて見た人物が兄さんだった。兄さんは俺にこう言ったんだ」
サフィールはゆっくりと瞬きをし、瞳を揺らす。
「『どうしてこんなところにトライドールがいる? 世界を危機に陥れたかもしれないのに。俺の前に現れるな』……で、俺に剣を向けた」
サフィールと初めて会った日のことを思い出す。
サフィールは妙に私が剣を持っていることを警戒していた。今なら理由が分かる。そういうことだったのか。
昔のことを思い出させてしまってごめんなさい。心の中で謝ってみる。
さらにサフィールは続ける。
「城では、俺はいないものとして扱われた。騎士も、貴族も、誰も俺に頭を下げない。唯一俺の味方だったのがラジエルだよ」
「話してみたら、気が合って。すぐに意気投合しましたよ。ね、サフィール」
「うん。孤独だった俺には、太陽みたいに見えたよ」
「そこまでのことはしてませんって」
サフィールは満面の笑みで、ラジエルは謙遜した笑みで互いの顔を見る。
私には味方がいなかった。たった一人だった。そこは一緒ではないのだな、と兄弟のいるサフィールがちょっぴり羨ましくなってしまう。
「王族ってさ、髪を伸ばす慣例があるんだ。でも、俺はちょっとだけ反抗してる。それがレイヤー」
サフィールは自分の金の髪を撫で、短いレイヤー部分を摘まむ。
「気持ちは分からくもないですけどね。王族という逃げ場がない場所だからこそ、排除派に狙われる。毒を盛られたこともありましたよ」
「毒……!?」
「うん。たまたま銀のスプーンを使ってたから、食べなくて済んだけど……。そのことがあったから、ラジエルは医療を学んでくれたんだ」
サフィールは笑うけれど、とんでもない話だ。
もし、銀のスプーンを使っていなかったら、サフィールはここにいなかったかもしれない。心臓が凍りついていくかのように感じた。
わざわざ自前のスプーンを持ち歩くわけだ。
「王族だから守られるなんてことはない。むしろ逆。誰が敵か味方か、本当に分からなくなるよ」
サフィールには味方がいたのではない。必要不可欠だったのだ。毎日のように危険と向き合う。私がサフィールの立場だったなら、一日で死んでしまうだろう。
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