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第7章 輝く氷雪 / 第113話
フレアの落ち込みようは相当なものだった。会議室で、三人で食事をしていても、シルバーが進んでいない。
「大丈夫か?」
「んー……」
アレクの質問にも、上の空だった。
アレクからの受け答えが困難なら、俺が出たところで解決はしないだろう。
重苦しい雰囲気の中で、黙々と食事する他になかった。
ミユの部屋の見張りだけはやってくれたのは救いだっただろうか。フレアが欠ければ、俺とアレクの睡眠時間が削られる。
薄暗がりの中で廊下を進むと、いつものようにアレクが壁に寄りかかっていた。ミユの部屋のドアを見据え、難しい顔をしている。
「アレク、交代の時間」
「あぁ」
アレクは曖昧に返事をすると、ゆっくりと体勢を立て直した。そのままこちらに歩いてくる。
「異常はない?」
「今のところはな」
このまま何も起きなければ良いが。吐息をつきつつ、アレクが立っていた場所へと移動した。
「オマエはフレアのこと、どうしたら良いと思う? 放っときゃ改善するもんか?」
「それはミユとフレア次第だよ。時間が解決する問題じゃない」
「だよな」
アレクは呟き、フレアがいるであろう部屋へと視線を向ける。
「誤解がすぐに解けりゃ良いんだけどな」
アレクが言いたいことは分かる。だが、ミユを急かしてはいけない。余計に混乱させてしまう。
「それは俺もどうにかしたいと思ってる。でも、まだミユは過去が前世だってことにも気づいてないんだ。すぐには無理だよ」
軽く首を振ってみせると、アレクは大きな溜め息を吐いた。
「とりあえず、寝てくる。後は頼む」
「うん」
遠ざかっていくアレクの背中を見ながら思う。ミユがフレアを許す日はやってくるのだろうか。カノンが死に際まで恨んでいた相手だ。転生後であるミユもその気持ちは引き継ぐのだろう。
いや、俺がフレアのことを考えていても仕方がない。壁に背中を預け、腕を組む。俺はミユのことと、自身の身の振り方を考えなくては。目を伏せ、床とドアの間を見詰めていた。
* * *
火の塔に行ってから四日の歳月が流れていた。
フレアは未だにミユと接触をしていない。
恐らく、今日も無理なのだろうな、と思いながらキッチンを覗いた。朝食を作り終わり、アレクとフレアが談笑しているところだった。俺の存在には気づいていないようだ。
テーブルに置いてあるスープ皿に、フレアは手を伸ばす。
「あたし、これ持っていくね」
「いや、無理すんな」
「無理してる訳じゃないよ。ちゃんとミユに謝りたいだけなの」
どうやら、ミユの朝食の奪い合いをしているようだ。
ここで棒立ちしている訳にもいかず、小さく口を開いてみる。
「おはよう」
「あっ、クラウ。おはよう」
「よ!」
フレアは以前の調子に戻っている。彼女の中でどんな変化があったのかは分からないが、嬉しい変化であることには変わりない。
挨拶をしつつも、会話は二人だけで展開されていく。
「謝るだけなら、オレが持って行っても謝れるだろ?」
「そうなんだけど……」
フレアは「うーん」と唸り声を上げ、右手を腰に当てる。
「じゃあ、お願いしようかなぁ。考えごとして、スープ溢しちゃっても大変だから」
「よし」
どうやら決着がついたようだ。結果的にアレクがスープ皿を手にし、こちらへと進んでくる。
「おい、オマエもミユの部屋に行くだろ?」
「えっ? うん」
行くに決まっている。俺を置いていこうとでもするようなアレクとフレアの後を追う。
ミユの部屋にはすぐに着いてしまった。皿を持っているアレクの代わりに、フレアがノックをし、ドアを開ける。
「ミユ、朝飯持ってきたぞ。食えそうか?」
アレクに続いて部屋へと足を踏み入れた。多分、フレアもドアの隙間から顔を覗かせていると思う。
だからだろうか。ミユは飛び起き、目を丸くする。それも僅かな間で、俯いてしまった。
フレアもどう切り出したら良いのか分からないらしく、気まずい空気が流れる。ゆっくりと俺とアレクの間に割って入り、瞳を潤ませる。
その空気を破ったのもフレアだった。
「あたし、ミユに謝りたくて。ずっと部屋に来れなかったから」
震える声にミユははっと顔を上げ、眉尻を下げる。
「私の方こそごめんなさい」
言いながら、ミユは勢い良く頭を下げた。
「二人とも、んな顔すんな! これで仲直りな」
アレクは皿をテーブルへと置き、ミユの方へと歩み寄る。太い腕を伸ばすと、ミユの頭を乱暴に撫で始めた。
まるで、影のことを知らなかった百年前に戻ったかのような感覚だ。
微笑ましくて、小さく笑ってしまった。どうやらそれはフレアも同じだったようで、笑みを溢す。
ふと、頭上から白いものが現れたのだ。三つの――これはラナンキュラスだ。ミユがまた無意識のうちに魔法を使ったのだろう。ふわりふわりとそれぞれが地面に落ち、音も立てずにカタリと傾く。何となく、そのうちの一輪を摘まみ上げた。
「ラナンキュラス……」
この花はカノンが好きだった花だ。魔法で出すくらいなので、ミユも好きなのだろうか。しんみりとしてしまう。
「ラナンキュラス?」
「うん。この花の名前だよ」
言うと、そっと微笑んでみせる。
「誰が用意したんだ? この花」
「またクラウ?」
「えっ?」
不審に思われるかもしれないため、上手く反応が出来ない。何故、都合の悪いことばかり、俺に押しつけるのだろう。
そんな俺に、ミユは小首を傾げる。
なんとか話題を変えようと、テーブルへと近づいた。
「それより、スープが冷めちゃうよ。ミユ、こっちに来れる?」
「えっ? うん……」
不振がりながら、ミユは俺たち三人の顔を見比べる。俺たちもバレる訳にはいかないので、平静を装う。アレクとフレアなんて苦笑いまでしていた。
探りを入れることを諦めたのか、ミユはそろりとベッドから抜け出し、テーブルへと移動する。
「いただきます」
彼女特有の挨拶が聞こえると、静かな食事は始まった。
ラナンキュラスについて追及されなくて良かった。ほっと胸を撫で下ろし、食事後にアレクとフレアに不服の目を向けた。
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