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第28章 光と闇 / 第184話
影は口角を上げたまま、ジリジリとこちらに近づいてくる。その後ろに奴の存在がちらつく。
「クラウ、ごめんなさい」
「謝ることじゃないよ。相性が悪かっただけだから」
「でも……」
「次からは先にどっちが攻撃するか、ちょっと考えよう」
影と真の敵を交互に見ながら、間合いを取るために後退していく。
「あたしが先に攻撃する。炎が収まったら、すぐに魔法を使って」
「分かった」
フレアに頷いてみせ、いつでも魔法を放てるように準備を進める。
影は自らの意思を持っているかのように、腕を振り下ろす。と同時に、風のナイフが空気を切り裂く。
駄目だ、フレアの魔法では弾けない。思った通りにフレアの魔法は防御の役割を果たせなかった。それどころか、風が炎をまとって迫り来たのだ。
咄嗟に氷の壁を作って、その場を切り抜ける。
「ありがとう」
「ううん、これくらいなんでもないよ」
会話をしている余裕があるのは、魔法の特訓の成果なのか。それとも、影が弱体化しているからなのか。分からないが、とにかく影を消さなくては。ミユの元へ辿り着けない。と言っても、理論上で影を消せるのはミユの魔法だけなのだ。
どうすれば良いのだろう。このままでは、体力を削られる一方だ。
「何とかしてミユとアレクに近づけないかな」
「あたしも考えてるんだけど、影の魔法を避ける時に、そっちに向かうしか」
「俺も同じことを考えてた。やるしかない」
頷き合い、影の次なる一手を迎え撃つ。
今度は炎の玉だ。それならば俺の魔法が効果的だろう。
「俺がやる!」
端的に叫ぶと、影の炎よりも一回り大きな氷の玉を投げつけた。炎は掻き消え、砕けた氷の欠片が影にかかる。影の表情は変わらない。
「今だ!」
弾かれたように、二人で駆け出した。それを阻むかのように、行く手に氷の壁が現れる。
「こんなので、あたしたちを止められると思う?」
フレアが火炎放射のごとく魔法を放つと、一瞬で氷は水蒸気と化した。ずぶ濡れになった一帯を、泥水を散らしながら駆ける。
影も並行して俺たちを追う。お陰で影に背を向けずに済んだ。相手の攻撃を見逃さずことはない。――筈だった。
突如として、漆黒の矢が目の前に現れたのだ。俺は何とか避けられたが、フレアは間に合わなかった。
「きゃあっ!」
「フレア!」
一歩前を走っていたフレアは、勢い余って転んでしまった。その脛を漆黒の矢が貫く。
「うっ!」
「駄目だ、こんなの……!」
フレアの表情が歪み、涙が滲む。庇った手の隙間からはどくどくと血が溢れ出す。
それなのに、彼女は自分よりも俺の心配をするのだ。
「クラウ、行って!」
「そんなの出来る訳ない! まだ影がいるのに!」
いくらミユのためだからと言って、仲間を見殺しに出来るものか。とにかく、今は影の標的を俺だけに引きつけなくては。
無駄だと分かっているが、氷の刃を影へ放った。
「影! こっちに来い!」
再び大地を蹴り、フレアから距離を取る。攻撃するなら俺だけを狙え。目で訴えかけ、影の出方を見る。
攻撃をするためだろう。影が手を掲げた、その時だ。突如として岩の柱が影を襲ったのだ。避ける隙もなく、影は被弾する。すると、影が淡く発光し、頭の先から掻き消えていった。
これはミユの魔法だ。
慌ててミユの方を見てみると、奴がミユ目がけて腕を振り下ろそうとしているところだった。
「やった……!」
「ミユ、危ない!」
止める間もなく、漆黒の矢がミユの左腕を掠る。赤が真っ白な服を染めていく。
絶対に許さない。怒りは魔法へと変わり、激流となって奴を襲う。しかし、相手は瞬間移動が出来るのだ。攻撃は当たることなく、奴がいた場所を通り過ぎる。黒い者は僅か後方へと移動していた。
今、ミユの元へ行かなくては、また偽の影を出されるとも限らない。傷ついたフレアを置いていくには、罪悪感が邪魔をする。せめてもの償いで、マントを切り裂いてフレアの傷口に押し付けた。彼女は痛みに耐えきれず、唸り声を発する。
「フレア、ごめん」
「ううん、あたしは大丈夫だから。行って」
「うん」
どうか、フレアも生き延びてくれ。彼女に小さく頷くと、ミユを目標にひた走った。早く、一刻も早く辿り着かなければ。それ一心で。途中で何発か闇の矢がこちらに放たれたが、当たらずに済んだ。運が良かったのか、奴が手を抜いたのかは分からない。
同じようにこちらに全力疾走してくるミユと抱き合った時には、安心で涙が溢れそうになった。彼女も息が上がり、瞳を潤ませている。俺の手の中にいるうちは、絶対に指一本すら触れさせはしない。決意を固め、奴を睨み付ける。こちらを向く敵は、相変わらず狂気に満ちていた。迷いも一切なく、破壊の衝動だけが具現化しているようだった。
「影は消えたが、本体は私だ。君たちには、私は止められない」
奴は底冷えするような声で吠えるが、俺には効かない。そんなものに屈するような心は持ち合わせていない。
そして、奴は意味深な言葉を放つ。
「さっさと千年の眠りに就け!」
この『千年』が俺たちを百年間も引き裂いていた事実を、奴のみが知っているのだった。
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