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第8章 リインカーネーション / 第354話
自分自身が分からなくなり、首を横に振る。これ以上サフィールと一緒にいても、私自身の心を揺らすだけだ。
「私も部屋に戻るね。何かあったら教えて~」
「エ、エルヴァ!」
引き留めようと片手を伸ばすサフィールを無視し、踵を返した。そのまま廊下を疾走し、部屋のドアを閉ざす。
「ふあぁ……」
その場でしゃがみ込み、頭を抱える。前世が判明したところで、だから何だろうと私も思っていた。それなのに、顔が熱を上げ、心臓が激しく鼓動するのは何故なのだろう。
冷静ではいられない。考えれば考えるほどに自分の感情とはかけ離れていく。前世の私はサフィールと結婚していて、子供までいて、幸せに暮らして、サフィールを置いてこの世を去った。それがどうしようもなく悔しいのだ。この感情の正体が分からない。
「私、これからどうしたらいいの……?」
サフィールだけではない。ブラストン伯爵家でアレックスとフローリアの何かに触れたなら、トファーやガルニアとの関係性まで変わってしまいそうな気がするのだ。
四人で気まずくはなりたくはない。それなら、ブラストン伯爵家へ行くのを止めればいいのではないだろうか。一瞬だけ考えたけれど、トファーとガルニアの好奇心を抑えられそうな言い訳なんて思いつかない。
成すがまま、揺られるしかないのだろうか。
「む~……」
口を尖らせ、頬に手を当てていた。
夢で見たミエラとクローディオらしき人たちの後ろ姿がちらつく。二人は仲睦まじそうに寄り添っていた。それなら、私は二人の心配までしなくてもいい。それと同時に思う。二人は私たちの動向に心を揺らしていた。二人を心配させるのは違うのではないのか、と。では、私はどう行動すればいいのだろう。
余計に頭の中がこんがらがってしまい、唸り声を上げた。
「エルヴァさん、入るよ」
ノックもせずに、ドアが開けられる。ドアの近くにしゃがみ込んでいたため、そのままドアが背中にぶつかった。
「あ痛っ!」
「あっ、ごめん!」
前につんのめってしまった私の背中を、オーリが撫でる。
「ガルニアさんが、エルヴァさんとサフィールさんを一人にさせておくのは得策じゃないって言うから。おれが見に来たんだけど」
「サフィールとガルニアは?」
「サフィールさんにはラジエルが、ガルニアさんはトファーさんのところに行ったよ」
「そっかぁ」
サフィールが兄弟で一緒にいるのなら安心だ。ガルニアと二人きりにはさせられない。何故か、嫉妬に似た焦りが湧いてしまう。
「で、実際どうなの?」
「ん~?」
「サフィールさんのこと」
オーリが私の正面に回ってきて、まっすぐな瞳で私を見詰めてくるので、心臓が飛び跳ねた。
「やっぱり気持ちって変わるもの?」
「分かんないよ~」
「ふーん。そういうものなんだ」
どうやら、オーリは私の気持ちを突き詰めたいわけではないらしい。私がほっと胸を撫で下ろしていると、オーリはすっと立ち上がった。そのまま窓の方へと歩いて行く。
「この飛空艇が元は廃艇だったって聞いたら、エルヴァさんは驚く?」
「えっ?」
話の意図が見えず、首を傾げてしまった。
「それはビックリするけど……」
「たぶん、前世の話を聞くのって、こういうおれたちの過去を聞くこととあんまり変わらないと思うんだ。あくまでも、おれはね」
オーリはどことなく寂しそうな瞳で空を見詰めている。雲一つない青空の中で、一つだけ浮かんだ飛空艇――これが廃艇だなんて、本当なのだろうか。
「オーリ――」
「本当だよ。このダイヤモンド・ブスカール号は、元は廃艇。それも、ガルニアさんがいたダンス集団所有のね」
オーリは一度、視線を落としてから、再び空へと戻す。
「団長さんが、すごくいい人だったんだよ。チラシを見たんだろうね。トファーさんがどうしてもダンスを見に行きたいっていうから、おれがチケットを手配してこっそり見に行ったんだ。トファーさんがただの布で左目を隠してたから、勘で事情を知ったんだろうね。『ガルニアと同じだろう?』って、二人を会わせてくれた」
それがトファーとガルニアの初めての出会い、だったのだろうか。偶然のようで、必然のような、不思議な出会いだ。
「そしたら、団長さんが『この艇は元々、廃艇の予定だった。その気があるならガーネットまで艇を取りに来い』ってトファーさんをけしかけてね。身を隠しながら生きてたトファーさんには、その話が希望そのものに見えたのかもしれないね」
そこまで話すと、オーリはにこっと笑ってこちらを向いた。
「どう? トファーさんの過去話を聞いてたら、自分の前世の話なんてちっぽけなものに見えてこない?」
「……うん」
トファーには申し訳ないけれど、物凄く気が紛れてくれた。とにかく、今は自分を生き抜くことを考えなくては。そう思えてくる。
「オーリ、ありがとう」
「いや。あとでトファーさんに、また余計なこと教えたなって怒られるかもしれないけど」
オーリは頭を掻く、苦笑いをする。私としては、みんなの過去を知れたことで仲間意識が強くなるのだ。トファーやガルニア本人にも過去話を聞くのはアリなのかもしれない。
全員が揃った夕食時にでも、話を切り出してみよう。決意をし、拳を握る。サフィールの過去が想像以上に壮絶だったことに、後々気付かされるのも知らずに。
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