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第30章 明日への架け橋 / 第187話
攻撃を仕掛けられてばかりではない。こちらからも見舞ってやらなくては。氷の球をイメージし、接近する奴を目がけて放つ。闇の球ではなく、瞬間移動で避けられる。
体力の温存、ということなのだろう。
「その程度か?」
「違うって言ったら?」
「フッ。威勢だけは良いな」
威勢が良いのではない。ただの虚勢だ。奴を図に乗らせない程度の。俺の最大の攻撃は剣なのだから。
魔法でどれだけ持ち堪えられるだろう。早速、リエルの力を借りたくなってくる。
「リエル、俺の足を動かせる?」
“うん。出来るよ”
「じゃあ、頼んだ」
“分かった”
解呪の剣を今出すべきだろうか。迷っている間にも、闇の球は飛んでくる。魔法は間に合わず、足だけでそれを避ける。間近でそれは破裂し、左足が浮き上がった。受け身を取って、衝撃を和らげる。
「言うだけなら誰にだって出来る。だが、実力が伴わないと私は殺せないぞ」
「そんなに殺されたいの?」
「次の私に託せるのならな。そして、その時代に地の魔導師が存在しないのなら」
もう、表情だけではない。思考自体が狂っている。自分の命すら惜しいとは思わないなんて。どうかしている。
「じゃあ、さっさと殺されろ!」
「それでは面白くない。どうせなら、ミユに深い傷を残してやりたいからな」
どこまでも腐っている。何の罪もない少女に、そこまで執拗になるなんて。
「ミユはお前に何もしてない! どうしてそこまで傷つける!?」
「言っただろう。存在自体が罪なんだ。二度と転生する気が起きないように爪痕くらい残したとしても、誰も困りはしないだろう?」
「俺が困るんだ!」
「君だけだ」
黒の瞳はどこまでも冷え切っている。慈悲の欠片さえもない。
ミユがいなくなれば、世界の根幹が揺らぐ。エメラルドの土地はやせ、やがて世界へと広がっていくだろう。そこまで考えたが、一番の問題はやはり俺なのだ。彼女がいないのなら、この世界で生きる意味を失ってしまう。
もう後戻りはしない。ミユが殺されるくらいなら、俺が死ねば良い。
懐からハンカチを取り出し、手のひらの上で大雑把に広げた。ハンカチは風に乗ってはらはらと流れていく。シルバーに輝く解呪の剣を元の大きさに戻すと、右手でぐっと柄を握る。左手で鞘を支えるとゆっくりと抜き、刀身を露わにした。辺りの空気がぴんと張り詰める。
「そんなものを隠し持っていたとはな。面白いじゃないか」
俺を見る奴の口元がにやりと笑った。
「だが、ただの剣だ。君たちがくれた闇の剣に敵うかな?」
奴は自身の胸に右手をかざすと、その身体から剣が発現したのだ。靄をまとい、刀身は黒光りしている。『君たちがくれた闇』ということは、俺たちが出した羽根の力、ということだろうか。
まだ、奴は甘い。こちらがただの剣ではなく、『解呪の剣』であることには気づいていないらしい。その甘さが命取りになるだろう。
「ミユのためなら、何だってする。無謀だって、辛いだけだって、分かってても。指一本、ううん、魔法の欠片一つだって触れさせない」
言いながら、立ち上がって切っ先を奴へと向ける。これは俺の命を懸けた宣戦布告だ。
それを奴は鼻で笑い飛ばす。
「それはミユの出方次第だな」
「ミユは戦線離脱したんだ。もう手は出さない筈だ」
「それはどうかな」
試すかのように、奴はこちらに闇の球を放つ。ちらりとミユが向かった方を垣間見ながら。
咄嗟に氷の球を放って攻撃を砕くと、俺も彼女の方へと視線を向けた。
傍にいるアレクとフレアにそそのかされたのか、なんとミユは魔法を放ったのだ。岩の柱となって奴の右足を掠った。奴はこうなると分かっていたのか、にやりと笑うと瞬間移動でミユの元へと向かう。
「ミユ!」
どうか、彼女の命だけは奪わないでくれ。剣を握っていない左手を伸ばしたが、奴の攻撃を俺が止められる筈もない。
「何、これ!」
ミユの声が聞こえたが、状況が分からない。満足そうな笑みを浮かべて奴が戻ってくると、隠すことなく殺意を向けた。
「ミユに何をした!?」
「ただ身動きを取れなくしただけだ。君の死に様を見せつけるまでは、殺すのは勿体ないからな」
俺が死ぬ前提、か。ミユが無事なら、どうでも良いが。俺が死ぬ時イコール、ミユの呪いが解ける時、なのだから。あとは解呪の剣を掠める時を探るだけ――なのだが、これが難しい。
剣をゆらりと持ち直し、奴へと突進する。一振り切りつけようとするが、瞬間移動で軽々と避けられてしまった。
「君は剣を扱ったことがあるのか?」
「お前も知ってるだろ? こんな平和な世界で、剣を取る瞬間なんて来る筈がない」
「あいにく、私も剣を振るうのは初めてでね」
にたりと笑ったその瞬間――奴は軽々と片手で真一文字に剣を薙ぐ。刃が当たった訳ではないのに、風圧が痛覚を刺激する。
「った……!」
切られたような熱を持つ痛みを感じるが、傷を確認している余裕もない。初めてとは思えない身のこなしで、奴は斬撃を放つ。切っ先は十字に見えたり、並行に見えたり、剣で弾き返してはいるものの、攻撃する隙を与えない。
ひとしきり振るうと満足したのか、手を休めて口角を吊り上げる。その瞳に映ったのは、怯えた表情の俺だった。奴は嬉々として瞬間移動で後退する。
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