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第14章 すれ違い / 第318話
* * *
ミユへ
あなたに一つ、謝らなくてはいけないことがあります。解呪の剣のことです。
あれは、私の独断で創り出しました。そして、サファイアに託しました。
私たち地の力が、闇を光に変えることはミユも知っているでしょう。それを利用しました。
私があれを創り出せることは、使い魔たちも知っていました。恐らく、ルイスも。
あなたたち魔導師だけが、そのことを知らなかったのです。さらに、クラウを危険に晒しました。
謝って許されるとは思っていません。でも、謝罪だけはさせてください。
ごめんなさい。
エメラルドより
* * *
「今更、なんなの……?」
真実を教えてくれたのは嬉しい。でも、何故、それが今なのだろう。全てが終わった後で白状するなんてずるい。
こんな手紙は、クラウには見せられない。暖炉へと近付き、その中へ手紙を放り込む。一瞬、火が強くなると、すぐに手紙は黒い灰へと変わった。炎がなくなった後も、じっと薪を見詰めていた。
* * *
季節は移ろい、氷像大会の題材選びが近付いてきた。今年は私とクラウで決めてくれとのレオニスの命で、今夜クラウと打ち合わせをすることになっている。
「氷像って、どんなのがいいんだろう……」
私が思い浮かべられるのは、富士山や龍、蒸気機関車といったたぐいのものだった。龍はともかく、この世界に富士山や機関車があるとは思えない。
「う~ん……」
考えても、何も出てきてくれない。
そんな時に、私の部屋を掃除してくれていたリアナが口を開いたのだ。
「使用人に助けを求めてみてはいかがでしょう」
「使用人……?」
確かに、私よりもこの世界の氷像については熟知しているだろう。案を聞いてみるのも一つの手、なのだろうか。
「でも、それって私の意見になるのかなぁ。クローディオは私の意見を聞きたがってるみたいだから……」
アンケートを取ってしまうと、申し訳なく感じてしまう。
リアナは「でも」と続ける。
「それでは意見の出し合いにはならないのでは?」
「う~ん……」
言われてしまうとそうなのだ。アンケートのことはクラウに内緒にして、気に入った案だけを取り入れよう。
「リアナ、お願い」
「かしこまりました」
リアナは掃除を中断し、廊下へと走る。これでよかったのだと信じよう。
その日の昼食後には、アンケートの回答が揃っていた。小さい紙に、思い思いの字で書かれている。『ドルフィン』『ドラゴン』『ガーゴイル』『アゲハ蝶』『サファイア城』――多種多様なジャンルが上がる中で、私の目を惹いたのは『フェニックス』だった。何度も甦る不死鳥――鳥の姿を取っていた神になぞらえる。
これは一つの区切りかもしれない。神の元から巣立ち、自立した私たちを表そうではないか。何色にも染まらない氷で、神を超える不死鳥の姿を作ってみたいと思った。
「決めた」
「何にしたんですか?」
「秘密~」
理由も言えば、クラウも喜んでくれると思うのだ。
回収したアンケート用紙は、こっそりと暖炉にくべた。炎が立ち上り、証拠は隠滅した――はずだ。
* * *
夕食後に自室でソファーに座ってのんびりとしていると、早速ノックの音が響いた。
「は~い」
返事をするとドアが開き、クラウが顔を覗かせる。
「氷像大会の話しない?」
「うん、いいよ~」
笑顔を向けると、クラウも明るく笑ってくれた。私の隣にゆったりと腰を下ろす。
「いい案、思い浮かんだ?」
「うん。でも、クラウの案から聞きたいなぁ」
「分かった」
クラウは口角を上げ、紙を広げる。
「ペガサス」
その白い紙には、ペガサスという字とつたないイラストが描かれていた。
「その絵、クラウが描いたの?」
「うん。どうかな」
「歪だけど、可愛い」
「歪って……」
クラウは自分でその紙を確認すると、首を傾げた。
「上手くいったと思ったんだけどな。ペガサスって、身体もだけど、翼が映えるじゃん? 氷像にしたら、絶対に綺麗だと思うんだよね」
翼を語るなら、私の意見も負けていない。
「私はフェニックスがいいと思うんだ~」
「不死鳥、か」
「そう。私たちで神様を超えるの」
私が言い切ると、クラウは神妙な面持ちになってしまった。
「すごくいいと思う。フェニックスかペガサス、他の公爵家とも話し合って、被らなかった方にしよっか」
「うん」
少しだけ使用人の力を借りたとはいえ、私の意見を認めてくれたことが素直に嬉しい。そんな時に、クラウの視線がテーブルの上の何かを追う。
「ん……?」
「どうかした?」
私が首を傾げてみせると、クラウはテーブルの隅へと手を伸ばす。
「これ……」
クラウが見つけたのは、刺繍枠の下に隠れていた小さな紙だった。まさか、アンケート用紙の一部――一気に血の気が引いていく。
「ミユの字じゃないよね? どういうこと?」
勘が鋭いのはさすがだな、と感心している場合ではない。
「これは……ちょっとリアナに聞いただけなの」
幸いにも、紙に書かれていた文字は『フェニックス』ではなく『蒸気船』だった。誤魔化せるかもしれない。そう思ったのも束の間だった。
「フェニックスもリアナに聞いたの?」
クラウは責める様子もなく、ただ質問を並べる。それなのに、私の手の平は汗だくだ。
「えっ……ううん、違う」
「なんでそんなに焦るの?」
フェニックスが、元はと言えば私の意見ではないからだ。ただ、借りただけ――そう言えるはずもなく、唇を噛んだ。
「そっか……。俺、ミユの気持ちも考えないで、一人で浮かれてたんだね」
はっと顔を上げると、クラウは口を真一文字に結んでいた。
「ごめんね」
言いながら、私の手をぎゅっと握り締める。そんなに悲しそうな顔で、瞳を潤ませないで欲しい。
自分から謝る機会も奪われ、視界だけが滲んでいった。
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