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第8章 別れたくなかった友 / 第22話
ルーナスは木を適当な大きさに切り、輪郭を描く。そこにノミを当て、慎重に削っていく。
「友達って……どんな感じなんでしょう」
一緒にいるだけで気持ちが踊ったり、嬉しかったりするものなのだろうか。興味はあるのに、私には友達候補すら見当たらない。
ルーナスは手を止めることなく、目だけを細める。
「一番に言えるのは……一緒にいてくれると心強い、かな」
「それはユリオンですか? エルネスですか?」
「両方だよ」
心強いとは、どんな感じなのだろう。それも分からずに、視線を落としてしまった。
「ソレイユにも友達がいると思うんだけどな」
ルーナスは誰のことを言っているのだろう。「誰?」と聞こうとしたところで、不意に玄関のドアが開いた。光に透ける銀髪に灰色の瞳――エルネスだ。思わず手に力が入る。
ルーナスはエルネスを見て、意地悪そうに笑う。
「噂をしてたら、やっぱり来た」
「俺の噂か?」
「そうとも言えるし、違うとも言える」
エルネスがよく分からないといった様子で肩を竦めると、ルーナスは小さく笑い声を上げた。ルーナスはそのまま想刻へと向き直り、エルネスは私たちの傍に腰を下ろす。
「今回の依頼が親友だから。ソレイユに友達ってどんな感じか聞かれたんだ」
「……ソレイユには友達がいないのか?」
“しまった”
眉をひそめるエルネスに、ルーナスは口を結ぶ。
友達がいないことは、きっと恥ずかしいことではない。小さく頷いてみせると、エルネスは「うーん」と唸り声を上げる。
「神様の教えではね、友達は喜びを倍に、苦しみを半分にしてくれる存在だよ。知ってるかもしれないけど」
急に聖職者らしいことを言うのだな、と口をへの字に歪めてしまった。
「それは私も知っています。でも、実際はどうなのか分からなくて」
神の教えは私も説く側の人間だったのだ。聖書の内容なら、本を見なくても言葉に出すことはできるだろう。ただし、それ以上の言葉は見つからない。
エルネスはにこっと口角を上げる。
「じゃあ、友達を作りなよ」
「そんなに簡単に言わないでください……!」
エルネスの理不尽な物言いに、頬を膨らませそうになる。エルネスはまっすぐに私の瞳を見るので、思わず息を止めた。
「俺と友達になる? ……なんてね」
エルネスは「ふふっ」と笑い、ルーナスの方へと向き直る。
今のは何だったのだろう。エルネスは私と友達になりたいのだろうか。首を傾げてみても彼の心内が読めないので、さっぱり分からない。
“ソレイユ、ごめんね”
ルーナスは申し訳なさそうに私に目配せをしてくれる。気にしていないという意味を込めて、私は小さく頷いてみせた。
そのやり取りを知る由もないエルネスは口を開く。
「そういえば、ユリオンからの手紙って、やっぱりお前の所にも来てないのか?」
「うん、来てないよ」
「薄情者だな……」
エルネスは顎に手を当て、口を曲げた。ルーナスはその顔も見ずに、目を細める。
「俺たちを信頼してるだけだよ。頼れる人がいなかったら、ユリオンだってここを離れなかっただろうし」
「どうかな」
私はユリオンのことは知らない。でも、ルーナスの意見を信じたくなる。本物の英雄なら、尚更だ。
二人はユリオンの思い出話に花を咲かせ始めた。厄災の時はどうだったとか、旅立ちの時はどうだったとか、色々な話だ。ただ、私は全く入っていけない内容だったので、二人の話を流しながらルーナスの手先を見詰めていた。クリスの顔の輪郭が徐々に出来上がっていく。
時間が経つのも忘れて見入っていたので、オーレが開けたドアの音に驚いてしまった。
「ただいまー!」
「おかえり」
私とルーナス、そしてエルネスの声が重なる。
「エルネスだー!」
「オーレ、久しぶりだね」
オーレは笑顔でエルネスの方へと駆けていき、その胸に飛び込んだ。エルネスもしっかりと抱き留め、オーレの頭を撫でる。
「エルネス、明日遊ぼー!」
「明日は雨だからな。気を付けて教会に来るんだぞ?」
「えー⁉ また雨ー⁉」
「オーレが元気だから、空も嬉し泣きしてるんだよ」
オーレは明日も外へ行ってしまうらしい。遊び相手がいなくて寂しいのは私の方かもしれない。思わず吐息をついてしまった。
“オーレもすっかり友達が増えたな。ね、ソレイユ”
ルーナスの心の声に、肩が跳ねた。私の友達とは、オーレのことを言っていたのだろうか。こんなに年齢が離れているのに、友達なんて――いや、年齢を気にしているのは私だけなのだろうか。
「オーレ。私はオーレにとって、友達?」
言いながら首を傾げてみせると、オーレは眩いほどに笑ってくれた。
「うん! 大事な友達だよ!」
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