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第16章 語らうルーナス / 第46話
代わりに別の話題を提供する。
「エルネスとはいつ知り合ったんですか?」
聞いていたようで、一度も聞いたことがないことだった。ルーナスはコーヒーを口に含んだ後、そっと微笑む。
「五年くらい前だよ。俺は元々この町の出身で、エルネスは王都が遣わせた見習い神父。仲良くなるのに時間はかからなかったよ」
“懐かしいな”
ルーナスの顔はさらに緩み、ほっと息を吐き出す。そんなに前から友人なら、今の仲のよさも納得できる。私の胸もほんのりと温かくなった。
「出会ったのは教会?」
「うん。あの頃は一応、信仰心はあったからね。でも、厄災で教会の信用は地に落ちた」
そうか、厄災の原因は聖女の加護がなくなったことだ。教会を恨まない訳がない。当然、その感情の矛先はエルネスにも向いただろう。
私が息を詰めていると、ルーナスも目を伏せた。
「エルネスが厄災の時に動いてたから、エルネスを嫌う人はいなかったけど……」
ルーナスと同じように、町の人も複雑な気持ちだっただろう。想像するだけで分かってしまう。私が町の住人だったら、教会には寄りつかなくなる。懺悔にも訪れない、この町の人たちと同じように。
「俺とエルネスは、最愛の人を厄災で失った。相手は生きてるけど、もう会うこともできない」
その人がエルネスの想刻相手なのだろう。どんな想いでルーナスに彫刻を託したのか、私には想像することができない。
それよりも、ルーナスにも恋人がいた。その事実に胸がざわつく。
「ルーナスはその人を想刻しなかったんですか?」
聞くと、ルーナスの瞳は揺れる。
「うん。元恋人に囚われたままじゃ、次には進めないからね。それに」
ルーナスは何故か私を見て、そっと微笑んだ。
「今はソレイユとオーレがいるから」
“俺の心は満たされてるよ”
この時、私は初めて、ここにいるべきではないのではと思ってしまった。私がいるせいで、ルーナスが前に進めなくなっているのでは――。
私は今後、どうするべきなのだろう。
「ソレイユ?」
その声にも上手く反応できない。俯いて口を結ぶと、玄関の方からドアの叩かれる音が響いた。
「大事な話でもしてたのか?」
エルネスの声だ。顔を上げてみると、不思議そうな顔をしてこちらを見るエルネスと目が合った。
「いや、厄災の時の話をしてただけだよ」
「そうか」
ルーナスが立ち上がって、エルネスをテーブルの方に招き寄せる。エルネスは儚い笑みを浮かべながら、ルーナスの向かいの席に着いた。
「偶然、ユリオンが辿り着いたからよかったけど。じゃなかったら、この町は死んでただろうからな」
「それは俺も思う。ユリオンが来てくれてよかったって」
ユリオンはこの町の人ではなかったのだろうか。いつもルーナスとエルネスが旧友を語るように話を聞かせてくれたので、私は勘違いしていたらしい。
「ユリオンは旅人なんですか?」
「うん、そうだよ。話を聞いたら、山から煙が見えたから立ち寄っただけ、なんだって」
ルーナスはくすっと笑う。好奇心なのか、正義感からなのかは分からない。それでも、町の人たちにはユリオンは救世主のように映っただろう。木の苗を片手に奔走するユリオン――像ができたからこそ、私も頭の中で思い描くことができる。
「凄い人ですね」
一言で終わらせるのは忍びない。しかし、それ以上の言葉が見つからなかった。
「もっと凄いのが、『こんな町が他にもないか、俺にできることがないか見て回りたい』って去っていったことなんだよ。エルネスよりも聖職者らしいことしてるなって、俺は思う」
「……言えてるな」
ルーナスが茶化しても、エルネスは鼻で笑うだけだ。二人の距離感が羨ましく思えてしまう。
「木こりついでに、植林地の手入れをしてるのはルーナスだし」
「何で知ってるんだ?」
エルネスにバレていることを今知ったかのように、ルーナスは目を開いた。エルネスは腕を組み、小さく笑う。
「だから俺に『へっぽこ英雄』なんて呼ばれるんだぞ?」
「それはやめろって言ってるのに」
“ソレイユの前で”
ルーナスはほんのりと頬を赤く染める。今度こそエルネスは声を上げて笑った。そして、すっと私の目を見る。
「この調子じゃ、俺の過去の話も聞いてたりする?」
「それは……」
そうだと答えればルーナスが反感を持たれるし、違うと言えば嘘を吐くことになる。どう答えればいいか分からず、口を噤んでしまった。
「ソレイユは素直だね」
「私は何も言ってません……!」
「それが答えになってるんだよ」
他人と深い接触を持ってこなかった私は、知らず知らずのうちに墓穴を掘っていたらしい。気付いた瞬間に、頬は熱を帯びていく。思わず両手を頬に持っていってしまった。
「可愛い反応をするね」
「茶化さないでください……!」
穴があったら入りたいとは、こういう時のためにあるのだろう。エルネスには忘れられない人がいるのに、こんなことを言うなんて。少しだけ口を尖らせてみる。
「……どこまで話した?」
「俺の最初の依頼人はエルネスで、恋人がいたってことだけ」
「全然『だけ』じゃないな」
やれやれと言わんばかりに、エルネスは細い息を吐く。
「別に隠してたわけじゃないけど……友人なら、知ってて当然だろうし」
今のエルネスの『友人』という言葉は、私を指しているのだろうか。私がエルネスの友人でいいのだろうか。途端に胸が締め付けられ、声が出てくれない。
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