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第12章 過去に縋る国王 / 第34話
ルーナスは国王直々の依頼ということもあり、いつもよりも緊張した面持ちで想刻をしている。オーレはその仕事が重大だということは理解していても、名誉に関わることだとは認識していない。私が一番、疑問を解消できそうな相手であるエルネスは、自分の能力のことを教会にこもりっきりで詮索しているらしい。
私はざわつく心を抱いたまま、ただ流れる時間を感じていた。
「ソレイユ、どうかした?」
ノミを動かす手を止めないまま、ルーナスは心だけを私に向けてくれる。
“どうかしなくても、思ってることを言って欲しいけど”
その時に思ってしまった。私はルーナスやオーレの心の声を常に聴いているのに、私ばかりひた隠しにするのは違うのではないだろうか、と。
「ちょっとだけ、聞いてくれますか?」
「うん、勿論だよ」
ルーナスが微笑んでくれたので、私も口を引き締める。少し頭の中を整理し、順序立てて口を開く。
「国王陛下は、聖女の存在をどう思っているんでしょう」
私の囁きを聞くと、ルーナスの手が止まった。
「どう……なんだろう。俺も考えたことなかったな」
二人で遠くを眺め、唸り声を上げてみる。
“邪魔だとは思ってないだろうけど……国を安定させる存在なのかな。『駒』っていう言い方は、ソレイユには失礼だし”
そこまで考えたルーナスは、小さく「あっ」と漏らした。
「ソレイユ、ごめん。傷付けたいわけじゃなかったんだけど」
「大丈夫です。これくらいじゃ、傷付きませんから」
タンベルン国の人々には、もっと酷い物言いをされたものだ。『駒』だなんて誰もが思っていることだし、否定はしない。
「私は『駒』って思われててもいいんです。ただ、そこに愛情があったのか、疑問を持ってしまったんです」
いいように使われ、ボロボロにされ、捨てられた。親にすら愛されなかった私は、他の誰かの愛情を受けていたのだろうか。愛というものを知らずに育った私には、理解するには難しい。
「ごめん、ソレイユ。先に謝っておくね。本心は、俺には隠せそうにないから」
“そこに愛はなかったと思う”
分かっていたつもりだった。それなのに。どうして疑問なんか浮かんでしまったのだろう。余計に自分を苦しめるだけなのに。
「そう……ですよね」
気付かないうちに、頬を温かなものが伝う。ルーナスは目を伏せた後、またノミを動かし始める。
「でも、俺は思うんだ。聖女としてのソレイユを愛する人がいなかったとしても、これからのソレイユを愛してくれる人は現れるに決まってる。愛されないでこの世から消えてしまう人なんて、いないと思ってるからね」
それは、二年間も想刻師として生きてきたルーナスだから言えることなのだろう。たくさんの別れと愛を見てきた彼だからこそ。そう思うと、私の人生も捨てたものではないのだろうか。
涙を両手で拭いながら、思う。もし、私が笑える時が来るのだとしたら、その時に傍にいてくれる人が愛を持って接してくれる人なのだろう。
その人がルーナスだといいな、と淡い期待を抱いてしまった。
「あの……」
「ん?」
言いかけたのに、言葉が出てきてくれない。ルーナスは急かすことなく、想刻をしながら待っていてくれる。
「私は誰かに、愛してもらえるのでしょうか」
木を削る音だけが部屋に響く。ルーナスは優しく微笑み、口を開いた。
「愛されるかどうかはともかく、俺にとってソレイユは大切な人だよ」
その答えに、期待は膨らんでいく。自然と熱を帯びていく頬を気にしながら、そっと目を伏せた。
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