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第7章 後悔を抱える夫婦 / 第19話
ルーナスはすぐに想刻作りの工程に入った。その合間に、無邪気に遊ぶオーレを見る瞳がいつもよりも優しく見えるのは気のせいだろうか。
おもちゃの剣を握ったあの日から、私も積極的にオーレと遊ぶようになっていた。この日もルーナスの仕事を横目に見ながら、オーレと一緒にすごろくをする。不規則なリズムで音を奏でる雨も、なんだか心地いい。
「じゃあ、ソレイユは赤い駒ね! ぼくは緑の駒にするー!」
「分かった」
オーレに対しては、ようやく敬語が抜けた。笑顔が向けられなくても、少しでも親しみを持ってもらいたいとの願いがあってのことだ。私の思いが通じたのか、オーレの笑顔が増えたような気がする。
「じゃあ、ぼくからねー! えい!」
オーレは天高くサイコロを放り投げる。出た数字は五だった。ルーナスが手書きしたであろう道を進み、オーレは五のマスに睨みを効かせる。
「蛇に威嚇されて二マス戻る……えー⁉」
“なんで最初から戻っちゃうのー⁉”
「ぶぅ」
オーレは気に入らないのか、思い切り頬を膨らませた。しかし、癇癪を起こすわけではなく、不服そうながらも駒を二つ戻す。
実の子でなくとも、こんなに可愛らしいのだ。もし私がこの子の親で、突然に亡くしてしまったら――私の心は壊れてしまってもおかしくはない。それを依頼人は体験したのだ。あまりにも切なくて、胸が痛くなる。
振り向き、ルーナスを確認してみた。彼はいつもよりも真剣な眼差しでノミを握っている。心の声は相変わらず聞こえない――かと思われた。
“オーレ、絶対にいなくなるなよ”
想刻のエマとオーレが重なったに違いない。心の声は小さかったけれど、芯を持っていた。私も同じ気持ちだ。オーレは絶対にいなくならないで欲しい。
「ソレイユ? なんで泣いてるのー?」
「……えっ?」
オーレに言われて、頬が冷たくなっていることに初めて気が付いた。慌てて手で顔を拭い、首を横に振ってみせる。
「なんでもないよ。次は私の番でしょ?」
「うん」
“本当になんでもないのかな……”
オーレを心配させてはいけない。自然と私の手はオーレの頭を撫でていた。オーレはにこっと笑う。
“気持ちいいー”
こんな時こそ、微笑みかけてあげられたらいいのに。聖女にされてしまった自分と、笑わない決断をした自分を恨んでしまいそうになる。
細い息を吐き、なんとか気持ちを切り替える。
「じゃあ、サイコロ振るね」
「うん!」
サイコロを握り、そっと床に転がす。出した目は五だった。
「あっ! ぼくと一緒だー! 蛇に威嚇されちゃうんだよー」
普通は出鼻を挫かれたと思うのかもしれない。でも、今回ばかりはオーレとお揃いでよかった。そう思ってしまった。オーレの瞳があまりにも嬉しそうで、満足そうだったから。
すごろくを一周しても、「もう一回!」とせがまれた。オーレが望むなら、何でも叶えてあげたい。ダニエルとクロエの存在が、オーレとの結び付きを強くしてくれたのかもしれない。心の中だけでお礼を言い、三人でいられる幸せを噛み締めていた。
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